エンタメ不感症の患部に巻く包帯

クォンタムブレイク(steam版) 〈感想・レビュー・評価〉

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トレーラー

 
点数:75点
 
 

短評

 
 クリアまで約10時間弱ほど。同社の過去作であるアランウェイクと同様、ゲーム性よりかは雰囲気重視の姿勢は相変わらず。時間操作能力を駆使して戦う爽快感のあるTPS部分や、丁寧な辻褄合わせ系のタイムトラベル要素を主軸としたストーリー、非常に野心的な試みの数々など魅力的な部分は多々あるものの、全体的に作り込みが浅くもう一押しが足りない惜しい作品。
 
 
 

ブライトフォールズには勝てなかったモナークソリューションズ

 
 アランウェイクを作ったフィンランドのメーカーであるRemedyの作品だけあり、そこここにアランウェイク成分が残留しているのが印象的です。リニア型でちょっとした謎解きを挟みながらもひたすら一本道を進み続ける作りだったり、ドラマを意識した様な構成だったり(それどころかゲーム内にまんま実写ドラマパートがある)、フラッシュフォワードっぽい後に主人公が体験する出来事をやや手前で漏らしてしまうストーリーテリングだったりと、アランウェイクを踏襲していると思われる箇所が散見されます。
 
 メインのシステムは大きく分けて二つで、時間を操れる主人公がバレットタイムに近い様々な種類のスローモーション(全体をスローにしたり、限定空間だけスローにしたり)を駆使する爽快感のあるシューティング部分と、その能力でもってマップのギミックに働きかけ道を切り拓くちょっとした謎解き部分。
 
 まず、謎解きの様なことをさせられるアクションアドベンチャーパートは、戦闘中に用いる時間をスローにしたり静止したりする能力とうまく連動させた謎解き部分はいいのですが、イベントが発生する箇所にただ近づき特定のボタンを押すと勝手にギミックに干渉し時間が巻き戻ったり、過去の幻影が見えたりと非常に適当な作りのものも多く、気になりました。
 
 TMD(タイム・マニピュレーション・デバイス)という時空操作装置を用いて時間を操作するという似たようなコンセプトを持つシンギュラリティは、敵の時間を進めエイジング(老化)で即死させられるといったことが可能な戦闘部分と、ギミックの時間を進めて物体を腐敗させ破壊したり、逆に時間を巻き戻して元の状態に復元したりといったちょっとした謎解き部分のシステムがきちんと連動しています。なのに、今作はこの戦闘中に使う能力と謎解きがイマイチ綺麗に連動しておらず、とりあえず指示されたボタンを押したら勝手にその場に即した現象が起こるだけなので、能動的に謎を解いて先に進めたという達成感が極めて薄いです。もし、謎解き部分でギミックの時間を巻き戻すことで先に進めるようになるということがやりたいのであれば、戦闘中の能力にも同じく時間を巻き戻す能力を用意し、かつそれをプレーヤーの判断で非戦闘時でも使用できるという形にしないと謎解き部分に推理性が生じません。時間を操る能力といういかにも謎解き向けコンセプトのゲームなのに、この程度の最低限のルールすら守れていないため、この部分がよく出来ているシンギュラリティなどには到底及ばず。
 
 逆に様々な種類のスロー効果を用いる戦闘部分は爽快感があり好感触でした。特にデッドスペースのステイシスの様な敵の動きをスローにするのではなく、指定した空間ごと時の流れを止めることでコチラ側が撃った大量の銃弾も空中に静止し、時間の流れが元に戻った瞬間静止していた弾丸が雨あられのごとく一気に敵に浴びせられるという能力は気持ちよくて癖になります。その他にも、使用時に発生する衝撃波で敵を吹っ飛ばす効果のほうがむしろ楽しいシールドやダッシュ、発動中は終始バレットタイム状態になる高速移動(使用中は特定の敵を一撃で倒せるテイクダウンが可能)など、複数の能力を用い、敵に対して圧倒的な優位性を味わえる快感はアランウェイクを軽々と凌駕するほど。無時間状態での戦闘では倒した敵が地面に倒れるのではなく、死体となってその場で空中に静止するため、そこら中に敵の死体が静止状態で浮いているというあまり見たことがない絵面が拝め新鮮だったり、時間を操作する能力を用いるシステムだけでなく、それをどう斬新なビジュアルで見せるのかという手法にまでこだわりが感じられ、力の入り様に感心させられます。
 
 ただ、問題は敵のバリエーションが少なすぎてやれることが序盤で出尽くしてしまう点や、そもそも主人公の前に立ちはだかる敵組織であるモナークソリューションズという企業そのもののキャラが薄すぎて戦闘が発生するシチュエーションが退屈過ぎるなど、若干シューティング周りのシステムとはズレた部分に看過できない欠点が多いこと。
 
 特に気になったのは敵組織であるモナークソリューションズという企業のあまりの存在感の薄さです。どこにいてもうじゃうじゃ湧くだけでモナーク社の戦闘部隊(セキュリティ部隊?)と戦うということに別段ゲーム的なドラマが生じないため、ただ機械的に銃撃戦をしているだけで、ちっとも盛り上がりません。アランウェイクでは舞台となるもろにドラマのツインピークス風のブライトフォールズという田舎の村のキャラが立っており、ゲームプレイに彩りを添えるエッセンスとして機能していました。今作でブライトフォールズ的なゲームプレイに彩りを添える役割を果たすのは舞台ではなく敵対組織のモナークのはずなのに、この組織のキャラクター化が弱くゲームプレイが大して華やぎません。
 
 それは多分モナーク社に血を通わせるというプロセスを実写パートに丸投げし、ゲームパートで魅力を引き立てる工夫を怠っている点にあると思います。実写パートは主人公視点ではなく、モナーク社の内部事情を補完するような作りになっていますが、これを入れただけでモナーク社を掘り下げ、企業のキャラを立てられたとは到底思えず。
 
 実写パートはゲームパートとリアリティラインが乖離しないように照明の他にも多分カラーグレーディングなどを駆使して丁寧に仕上げているのでそこそこ見応えはあるものの、映像作品としてはせいぜいドラマ以上映画未満くらいの出来で、正直ゲームパートと違和感なく仕上げている以上の感想を抱くほど単体で魅力があるワケでもなく、毎回25分ほど続くため尺の長さにだれ、ゲームテンポをやや殺し気味です。ではこの実写パートで劇的にモナーク社の存在感が増すかと言ったらそんなことは一切ありません。これは、モナークソリューションズという企業に対してプレーヤーが何かしらの印象を抱く前にすでに企業としては黄昏た段階から話が始まってしまう設定上の不備にあると思います。かなり序盤からモナーク社内部に裏切り者がいたり、モナーク社に対して不信感を抱く社員がいたりと、最初に一枚岩の組織として見せてからそれを徐々に崩していくといった丁寧なプロセスを踏んでくれないため、いきなり足元がグラグラで脇が甘い脆弱な組織にしか見えず、あまりゲームパートでも脅威的な対象に感じません。
 
 このモナーク社くらいしか敵がいないのに、その肝心なモナーク社が非常に頼りがいがないため緊張感が生まれず、作品が締まらないという問題は、ストーリーだけでなくTPS部分にすら影響を与えてしまっているので、もう少し描き方に工夫があればそれだけでぐっと作品全体の印象が上向いたはずなのに勿体ないです。
 
 アランウェイクはジャンル的にスリラー系でなおかつホラー要素もあったため、いい感じでホラーが作品全体を引き締める効果を発揮し、リニア型の一本道が続いてもホラーによってもたらされる不穏さのおかげで緊張感が持続していましたが、今作はこの緊張感がごっそり消失してしまっているので、ゲームプレイがやや弛緩気味で散漫な印象を受けてしまいます。
 
 
 

辻褄合わせに終始する地味なタイムトラベルもの

 
 不完全なタイムマシンを作動させたせいで時間が壊れてしまい、世界が徐々に崩壊していくのを阻止するため過去や未来へタイムトラベルする、というのが主なストーリーの流れですが、劇中でもちょろっと触れられる様に、手法としてはノヴィコフの首尾一貫の原則という、過去にタイムスリップして何かをやろうとしても結局タイムパラドックスを起こす様な行動はできないというタイプの辻褄合わせ系タイムトラベルものなので、映像的には派手ですが、わりと体感としては地味です。
 
 
 映画で言うと“プライマー”や“タイムクライムス”、“プリデスティネーション”といったタイプのタイムトラベルものが近く、例えば序盤に起こった不可解な現象は実は未来からやってきた自分が起こしたものだったことが後で分かる、などの前半起こったことの辻褄合わせをしていくタイプのもの。

 同じくタイムマシンが出てきても平行世界系であるシュタインズゲートの様なタイムマシンで過去にメールを送り歴史を改変してしまうと世界の在り様がガラッと変わってしまうなどといった分かりやすいバタフライエフェクトは起こらず、実は今いる時間軸がすでに過去を改変しようと干渉した結果の産物だったことが明らかになっていくだけです。
 
 自分はどちらかというと丁寧な辻褄合わせに終始するタイプよりもド派手でカタルシスのある過去改変によるバタフライエフェクト描写を重視するようなタイプのほうが好みなので、タイムマシンが出てきてワクワクしていたのに、特に過去を改変していく話ではないと分かり「あぁ、そっち系かぁ……」と若干盛り下がってしまいました。・・・・・・とは言っても、“宇宙大作戦スタートレック)”の『危険な過去への旅』のような過去の世界で目の前に助けたい人がいるのに助けてしまうとタイムパラドックスが起こるから助けることができないという苦悩を描いたり、辻褄合わせ系ならではの味も堪能でき、終わってみると印象は上々でした。
 
 

まとめ

 
 ローカライズが不完全でところどころ内容理解に支障が出る箇所があったり、アランウェイク同様システム部分の作り込みが浅すぎて終始物足りなさを覚え続けたりと欠点はそこそこあるものの、それ以外の部分はアランウェイクと同等かそれ以上の高度な創作哲学が貫かれた力作中の力作なため、作り手の心地よい創作への熱意を堪能でき、かつゲームとしての最先端の試みに触れられ刺激的でした。
 
 
 
 

 

 

Quantum Break

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