エンタメ不感症の患部に巻く包帯

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六花の勇者(アニメ)

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トレーラー


 点数:75点
 
 
※原作未読
 

短評

 
 ありきたりで凡庸な印象を巧みに避けてみせる地味な工夫が随所に垣間見られるハイファンタジーサスペンスミステリー。ハイファンタジーの世界観で演出をサスペンスに特化させるという珍しい仕掛けのため、ハイファンタジー作品では味わえない演出の距離感の取り方が魅力的。
 
 
 

ハイファンタジーよりもサスペンスに寄せた演出の距離感

 
 最近はテレビアニメを選ぶ際、その作品の監督がコンテを描いている回を見て、コンテのタッチの好みで視聴するか否かを判断することが多いのですが、今作は一話の高橋監督のコンテに異質な感触を覚え、全話視聴することに決めました。後で振り返るとなるほどその理由が分かるという、コンテからもたらされる違和感そのものがサスペンスの予兆として機能しており巧みでした。
 
 原作を知らない状態で見たのと、アニメ版は原作では一番最初に提示される情報が四話まで開示されないという構成のため、ただのハイファンタジーアニメだと思って見ていたら途中から思ってもみなかった方向に進みだし「一話の変な感触のコンテはこの展開のための下地作りだったのか!」と時間差で納得させられることに。
 
 冒頭から本編とは視覚的な手触りが異なる壁画や絵巻物風の媒体を用いて歴史を語るなど、巧妙にファンタジーものの王道の語り口に擬態。その実主人公やメインキャラクターの身の上など何一つ確度の高い情報は視聴者に伝えず、サスペンスを成立させるため気付くか気付かないかギリギリのラインで納まりの悪さを伴う感覚をコンテなどに忍ばせ後々回収する・・・・・・前半はハイファンタジーものとミスリードさせ、中盤からようやくサスペンスに出番が回るという構成を、派手さはないものの王道に似せた偽装演出が堅実にアシストしており感心させられました。
 
 あえて不満を言うなら、まどかマギカほどとは言いませんが、ファンタジーからサスペンスへジャンルがスイッチする際にもう少しトーンに分かりやすく落差があったらけれん味が増して自分好みでした。前半と後半でガラッと雰囲気に変化が生じても良さそうなのに、あまりシナリオ的な状況以上に演出の変化が響いてこないのでちょっと物足りませんでした。ずっと物語の最初から潜んでいた不穏さがもっと露骨に牙をむいて欲しかったです。これは、うまくやれば前半はいかにもハイファンタジー的な固有名詞がたくさん出てきて世界観を成立させるため土台作りをしていると見せかけ、中盤以降世界観設定に成り済ましていた伏線や緊張感が偽装を解除し本性を剥き出してくる瞬間に演出的なカタルシスが生じたはず。
 
 
 

サスペンスを成立させるために何もかも足りていない脚本

 
 一癖も二癖もある勇者たちをしっかりキャラデザや作画、声優の演技で成立させている割に、肝心な脚本部分が非常におざなりで、サスペンスとしてもミステリーものとしても及第点に達しておらず、映像の足を引っ張ってしまっています。
 
 ミスリードが弱く、そもそも視聴者側に与えられる情報の絶対量がサスペンスを成立させるにはまったく足りていません。ただ起こることを受動的にぼけっと眺めるだけで、最後に謎解きのようなものをされてもほぼ後出し情報だけで、衝撃はあってもまったく腑には落ちないため、これならあってもなくても構いません。それに、設定上は本来なら足止めされている状態にタイムリミットのようなものがないとおかしいはずなのに、それが存在せず、サスペンス性をもっと強化できたチャンスを見す見す逃しているのも理解に苦しみます。勇者がある場所に期日通り辿り付けないと人間軍側に甚大な被害が出るとか、適当にでもいいので目先の危機を設定してプレッシャーをかけ続けないと、ただぼんやり足止めされているだけで緊張感が足りません。
 
 原作未読なので原作の問題をそのまま手直しせず放置してしまったのか、映像化の際の不手際なのかは計り兼ねますが、もう少し見ている側の視点や興味をトレースする丁寧な脚本・構成でないと、今作の持ち味をフルに引き出せません。サスペンスのような先行逃げ切りタイプの構成とミステリーのような追い上げタイプの構成と、どちらも中途半端に取り入れようとした結果どっちつかずで、自分的にはもっとサスペンス寄りのバランスにして、終盤の伏線回収は適当でも整合性が多少取れなくても構わないので、もっとサスペンスに全力集中して欲しかったです。
 
 ただ、主人公とヒロインが心を通わす瞬間をずっと引っ張って引っ張ってヤキモキさせ、最後にぐっとこさせるため、むしろこっちが脚本の主軸で本命なのかもしれません。
 
 
 

まとめ

 
 設定・脚本・シリーズ構成ともに難があるため、作品としてのバランスはすこぶる悪いですが、ハイファンタジーに偽装してサスペンスをやるという意図を設定や脚本だけでなく演出レベルでもしっかり追及しており、サスペンス大好き人間としてはワクワクさせられ、大いに楽しめました。
 
 
 
良質サスペンスアニメ