エンタメ不感症の患部に巻く包帯

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ヒッチャー(1986)

 

トレーラー

 

点数:60点
 

あらすじ

 
 車の配送のためサンディエゴに向かう最中、土砂降りの中ヒッチハイクをする人を見かけ乗せてあげる主人公のジム。しかし、乗せた男ジョン・ライダーはどこか言動がおかしく訝しむジム。すると、先程自分を追い越していった車が道の脇に不自然に停車しており不審に思い車を止めようとすると突然ジョンは強引にアクセルを踏ませ停車を阻止する。なぜこんなことをするのかと問いただすと男は先程の車の持ち主を惨殺したと告げ……。
 
 

とんでもサイコスリラー

 
 見る前はてっきりヒッチハイカーがまともな人間なのか危ない人間なのか判断が付かないという展開で引っ張るタイプのサスペンスなのかと思っていたら、いきなり冒頭から本性を現して主人公を脅しだし、話がとんでもな方向に向かいだすため、早い段階で馬鹿馬鹿しくて白けました。作り手はサイコスリラーのつもりなのでしょうが、明らかに見ている側の心情をトレースできておらず、展開の荒唐無稽さばかりが目立ち、怖いというよりもアホらしいという印象のほうが強烈に前に出てきます。
 
 途中から、もはや犯人がヒッチハイカーであるという設定が放り投げられ、この怪しいヒッチハイカーの話なのにヒッチハイカーであるということがどうでもよくなるというバランスがこの作品の有り様を示しているよう。スピルバーグ監督の“激突!”で例えれば、犯人がトラックから降りてきて素手でぶん殴ってくるような感じ。
 
 サイコスリラーを志向している筈なのにあまりにも起こる展開に溜めがなさ過ぎます。いきなりどでかい事件の犯人の濡れ衣を着せられるため、もはや犯人のジョン・ライダーが賢くて怖いというよりも、警官が状況証拠だけで犯人を決めつける無能のバカにしか見えません。そもそも、謎の人間にどこまでも付きまとわれるというサスペンスと、警察に犯人と誤解され追われるというサスペンスは別種の下準備が必要であり、明らかに警察に誤解される展開側だけ準備不足。ちゃんと主人公のジムが犯人であるという確たる証拠を突きつけて、それで見ている側を納得させなければ説得力がありません。
 
 ジョン・ライダーという正体不明の男も、結局ルトガー・ハウアー感しかなく、タイプキャスト的ですらあります。ブレードランナーでもデッカードをいたぶっていましたが、もはやルトガー・ハウアーが出てきて誰かをいたぶっていてもセルフパロディにしか見えません。見た目はそれほど怖くないのに振る舞いが怖いというほうがサスペンス的で、見た目も怖いしやっていることも暴力的なため、ただのスラッシャー映画にしか見えませんでした。
 
 

ロケーションや撮影は抜群

 
 舞台となる荒野はしっかり映画的に風景を切り取れており、豪華。ところどころ景色だけでうっとりできる箇所もありますが、だからといってそれが何か作品的に相乗効果を生んでいるかと言えば変態殺人鬼と警察に追われ、誰にも理解されない孤独を大自然の中でぽつんと佇むことで表現している程度。結局、話がデタラメすぎるため、そもそも感情移入などできず、警官に追われながらところどころ綺麗な景色が映るだけという印象しか受けませんでした。
 
 撮影も1カットたりともしょぼい絵というものはなく、きっちり映画的に仕上げていますが、だからといって仕上げただけで魅力を付加させるところまでいっているかと言われれば微妙。
 
 牢屋の中で目覚める際にジョンが車のガラスをノックする音と銃声が重なるという編集は絶妙。ジョン・ライダーの来訪をノックで表現するという手法は場面とバッチリ合っていて鮮やかな手並み。牢屋の鍵が開いていることに気づくシーンを長回しで自然に見せたりと、演出や撮影は全体的に非常にうまいのに、なぜかそれがサスペンス的な面白さに一つも結びつかないのが残念。
 
 

まとめ

 
 映像としては悪くないのに、作り手の表現したいであろうことがことごとく不発しているのを見せられるだけで退屈でした。
 
 サスペンスとしては緊張感が足りず、スラッシャーとしては暴力描写をちゃんと描かず誤魔化すため、どっちつかず。
 

 

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